乙女解剖MAD、良いですよね。
僕はそもそも原曲の乙女解剖に並々ならぬ思いがあるのですが、その世界観に見事に嵌め合わせてくる動画が多くて舌を巻きます。
ということで、一乙女解剖ファンとして好きな乙女解剖MADを見ていこうと思います。(ここにないからといって嫌いなわけじゃないです。文章量の都合で厳選しています)
…とその前に。こうしたMADを見るうえで知っておくと面白いよねって知識を共有しておきます。
富野由悠季『映像の原則 改訂版 ビギナーからプロまでのコンテ主義』(株式会社キネマ旬報社、2011)では、映像を作る上での視点として「モンタージュ論」と「フォトジェニック論」というものが紹介されています。
モンタージュ論とは、「カットの繋ぎ合わせ」を重要視し、その組み合わせから新しい意味を発生させることである種の雰囲気や印象を提供する、という見方です。
一方フォトジェニック論とは映像美を重視し、優れたカットが精神的価値を喚起するという見方で、これに「リズム論」——リズムが映像表現を支配するという見方――を融合させて紹介していました。
これら二つは完全に対立するわけではありませんが、承知しておくと方向性が据えられそうですね。
それともう一つ、「二元論-多元論-相対論」という分類も面白いなと思います。詳細は上のリンクを参照のこと。
で何が言いたいかというと、乙女解剖MADの肝要な部分の一に、この「モンタージュ」があると僕は勝手に思ってるのです。
乙女解剖は元PVからして「モンタージュ」かつ「相対論的」なものだと思っています。
ストーリーを直接的にではなく、「雰囲気で」伝える。終始ダークな圧倒感/狂気感を基に世界観が演出されており、説得力が強いです。その結果、考察しがいのある動画にもなっている。
こうしたカット組みと雰囲気作りにより奥に潜むストーリーの存在を匂わせる、という点は、相対論的な動画の強みでしょう。
『自転車解剖』はこうした視点を明確に意識し、ストーリー付けを行ってからそれを「匂わせる」動画にしています。(一つ前でも書きましたが必ずしも伝わってほしいということではなく、動画に深みを持たせる隠し味としてこうしたものは意味を成すと思っています)
そして、奥ゆかしい雰囲気の描写が為されている音MADがドンドン出ています。凄い。乙女解剖MADは他であまり見ないようなモンタージュ性の演出、意味付けが為されたものが多く、そうした側面でも面白いですね。
本記事ではそうしたモンタージュ性を中心にMADを見ていこうと思います。それでは本題に。
※勝手な解釈を添えているので注意。色々解釈しながらMADを見るの、楽しいのでオススメです。
鳩さん解剖
初見でなるほど~ってなりました。「鳩を食べる」というブッ飛んだキャラクターが原曲の女の子の狂気感に重なっており、説得力を増しています。
ラストでは「食べたくない」と友人である灯織に拒絶されてしまい、緩やかに崩壊していく…というストーリーも、原曲と見事にマッチしていますね。
それと世界観を演出するための歌詞改変や台詞の置き方が秀逸で凄い。「涎をブラウスの袖に塗って」とかいう歌詞、感心するしかないでしょ。「プロデューサーさん大好評だったあの鳩」ってことは、真乃は鳩だと伝えずにプロデューサーに鳩肉を提供しているのでしょうか。あるいはプロデューサーも…?もしくは無理をして…?といった風に、更なる想像の余地も与えてくれます。
いかに世界観を維持するか、というのはモンタージュ動画の課題でありますが、この動画は上手いこと洗練されていて良い。
利息解剖
鳩さん解剖もそうですが、狂った女の子が主役になっててサイコーですね。悪女のセクシーさも演出されておりエクセレント。
そしてやはり、ラストの「卯月を手放すとはなぁ…」の回収でしょう。鳥肌立ちましたもん。「手放された後の卯月」がその身と引き換えに金に変わっていく…という落とし込み方、見事すぎる。卯月の泣きそうな人力も説得力マシマシで、斬新。貸す人間、借りる人間、貸し出される人間、それぞれの心情が蠢く狂った貸し借りの世界が、一つのMADの中で表現されています。
東雲改造
原曲の仄暗い雰囲気と可愛いユルさが両立しており、こうしたアプローチもあるのか~となりました。無邪気に改造するはかせと普通になりたいなの、傍観する阪本。倒錯した関係を原曲に乗せて演出しながらも、どことなくほんわかとした雰囲気も残っており、バランスが良い。
はかせの人力が特徴捉えてて良いよね…。最後の改造されてる絵も良い。
土竜解剖
削除されてしまった『岡戸解読』もそうなのですが、乙女解剖は「世に狂わされる人」を皮肉る文脈で使われても強いな~という気付き。雰囲気作りが徹底されていることもあり、普段のsyamuMADとは少し毛色も違って見えますね。
「本当の名前」と歌わせて本名出したり、骨のシーンだったりと、元ネタの原曲への落とし込みが秀逸です。あと音作りと人力めっちゃ上手いっすよね…。
タイトルをコロコロ変える手法もフル尺ならではで面白い。様々な所で工夫が見て取れてメッチャ良いですね。
たるき解剖
小川さんをこの曲にどう落とし込むんだ…!?というワクワクからの、なるほど。小川さんの小鳥に対する歪んだ愛、という世界観、メッチャイイ。SS書いてほしい。
実際どういう関係なんでしょうかこの二人。プロデューサーをやっかむほどの小川さんの嫉妬深い愛に対し小鳥はどう思っているのだろう。「涎をスカートの裏に塗る」関係の一方で、小鳥の方はどうも心が離れているようにも見える。ドロドロで良い…。
涎をスカートの裏に!?!?!?!?!?!?!??
以上のものが特にモンタージュの視点で魅力的だと感じた作品でした。ここからはそれ以外の視点で面白いな~と特に思ったもの。
バタコ介抱
全てが面白い。語るのも野暮だし見たほうが早い。
こういうアプローチもあるぜ!!ってのを界隈に示しているようで頼もしい。
りんご解剖のうた
一発ネタなのに手描きとかめっちゃ凝ってて好きです。「時々甘いじゃん稀に酸っぺ」、歌っちゃう。
乙女廻王
特にラスサビの音の重なり方が透明で好きです。
おかめ納豆
タイトルだけで面白い。何だよこの素材
乙女解剖解剖
カッコよすぎ。アップテンポと合いすぎてる。
洋子斉藤
音作り、歌詞改変、手描き、どれも好きです。
ということで乙女解剖MADを見ていきました。紹介できなかったものも多いのでまた語りたいですね。